多様な理事陣 「新聞の応援団」としての戦略
―シンブンケンの理事メンバーは個性的です。人選の意図を教えてください。
菅沼氏
共通しているのは、全員が「新聞の熱烈な応援団」だということです。
専修大学の山田健太先生は、日本で唯一「ジャーナリズム学科」という名称を持つ学科を立ち上げた教授で、学問的・理論的に新聞を語れる大事な存在です。山田先生のゼミからは記者も多く育ち、特に地方紙との連携に大いに力を借りたいと思っています。
「新聞党」代表の渡辺秀人さんは、サントリーでウイスキー市場のV字回復を仕掛けた一人で、2013年に自ら「新聞党」を創設した人物です。
新聞党の資格は「新聞と真摯に向き合うこと」だけで、150人くらいのメンバーがいる。彼は新聞を語らせたら半端じゃない熱量の持ち主です。シンブンケンのキャッチコピー「新聞の逆襲」は彼の発案です。
城南信用金庫の川本恭治前理事長とは、3・11 以来の長い付き合いです。原発からの脱却を掲げた信用金庫で、今も被災地の支援に力を入れています。コロナ禍で飲食店応援キャンペーンを東京新聞とともに仕掛けました。
新聞に「この店を応援しよう」という記事が出ると、本当にその飲食店に行列ができる。
川本さんは金融界の現場で新聞力を実際に体感してきた人です。
東京新聞内からは論説主幹の豊田洋一、編集局次長兼新聞開発室長の鈴木薫。豊田は政治部出身で、現場で一緒に政治を取材してきました。社説・論説のプロフェッショナルです。鈴木は私が局長時代に立ち上げた「次世代研究所」のリーダーの一人で、「新聞に未来がある」を合言葉に新しいコンテンツ開発に取り組んできました。
監事の宮岡孝之さんは弁護士で専修大学法科大学院教授。法律家として大所高所から新聞力研究所を冷静に見てもらえると思っています。
「新聞の逆襲」 影響力のある中間層がカギ エヴァンジェリストに
―「新聞の逆襲」とはどのような戦略なのでしょうか。
渡辺さんのサントリー時代の経験をヒントにした三層を意識した戦略です。
第一層はコア層、現在も新聞を愛してくれる読者であり、販売店との対話を重ねて信頼と支持を固める。第二層は無関心層で、ここは当面は動向を注視するにとどめる。
シンブンケンが最重視するのが第三層の「影響力のある中間層」です。社会や地域で一定の影響力を持つ人々。この層に「新聞っていいよね」という肯定的な風を吹かせることが逆襲の着火点です。
渡辺さんの言葉で言えば、エヴァンジェリスト(伝道者)ですね。新聞の魅力や効能を自分の言葉で広げてもらう。私たちはその後押し役として、ゲリラ的に社会のざわめきを大きくしていく。これが「逆襲」の全体像です。
新聞の強みと課題 「情報の洪水の中の岩場」と記者の個性
―現代の新聞の「強み」と「課題」はどこにあるとお考えですか。
最大の強みは「確認のメディア」としての信頼性です。3・11 のとき、ネット上には嘘か本当かわからない情報がたくさん流れましたが、その結果として全ての新聞社の信頼度が高まりました。
みんな「新聞だけは嘘をつかない」、「新聞を読んでいれば、いつかそこに出たことが本当のこと」と信じてくれた。
記事は記者が取材し、キャップと議論し、デスクがチェックし、整理部が見出しを整え、校閲が誤りを正す。大スクープなら編集局長も出てきます。
よくテレビドラマで「上が記事をつぶした」と描かれますが、あれはおもしろおかしくしているだけです。上司は「事実確認が弱いから別ルートからも確認しろ」と言っているんです。
こうした工程を講演で説明すると、皆さん
「そんなにチェックしているのか」
「こんなに真面目に我々のことを考えて記事を書いてくれているのか」
と驚かれます。
私がSNSを始めて実感したのは、新聞は「情報の洪水の中の岩場」でありたいということです。
SNSをやっていると、1日1回、2回、多いときは3回以上つぶやくのですが、ジェットコースターのような虚実が入り混じる情報の洪水に流され、時におぼれそうになる。
そうした中で毎朝届く新聞、特に社説を読むと落ち着くんです。社説は3分の2以上が経過とファクトの整理で、最後に結論が来る。
結論に賛成できなくても、経過と論拠は嘘を絶対言わない。
情報の大洪水時代に、安全な岩場として機能し、流れも俯瞰できます。SNS時代には紙の新聞が見直されるはずです。
一方で課題は、組織ジャーナリズムゆえに新聞の一番の強みである記者の顔が見えにくいことです。署名記事はかなり増えましたが、署名と記者の人物像が結びついていない。
講演先に赴いたとき、私が痛感したのは先方からは
「なぜ記者になったのか」
「どんな思いで記事を書いていたのか」
といった人間的な質問が一番多いことです。
「この人間は信用できるのか」
を皆さん確かめたがっている。
組織を守りながら、どうやって記者個人の専門性や魅力を前面に出していくか。リスクもありますが、記者の自由度を高めないと厳しいと思います。
私は局長時代、記者クラブの発表の先取りはスクープとして認めないと決めていました。編集局の究極的な姿は「全員特報部化」ですね。記者クラブに所属せず、自分の問題意識で自由に動く。そうした記者の姿が見えるようになれば、読者の「推し」も生まれてくるはずです。

コメントを残す